書家 山本祐司 −正統と品格 清新な雅趣の創造− 本文へジャンプ

トップページに戻る  書論・書道史に戻る


2015年掲載

正しい楷書の書きかたは、学校で習うもの?

 

小中学校の教員の先生方はご存知のことだと思いますが、

保護書の方や、一般の大人の方、学習塾や習字の先生方など、

間違ったことを子供たちに教えないために、知っておいて欲しいことがあります。

 

それは、楷書の文字の正しい書きかた、正しい楷書の形とは、ということです。

 

さっそく、学習指導要領解説(国語編)の中から、

文字指導について記述されている箇所を見てみましょう。

 

・・・・・・・・・・

 

小学校学習指導要領解説 国語編 (文部科学省) より。

 

・・・

 

伝統的な言語文化に関する事項,言葉の特徴やきまりに関する事項,

文字に関する事項

 

(中略)

 

(ウ) 漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること。

 

(中略)

 

(ウ)は,漢字の標準的な字体の拠り所を示している。漢字の指導の際には,

学習指導要領の「学年別漢字配当表」に示された漢字の字体を標準として

指導することを示している。

 

しかし,この「標準」とは,字体に対する一つの手掛かりを示すものであり,

これ以外を誤りとするものではない。

 

児童の書く文字を評価する場合には,「常用漢字表」(昭和56年内閣告示)の

「前書き」にある活字のデザイン上の差異,活字と筆写の楷書との関係なども

考慮することが望ましい。

 

・・・・・・・・・・

 

中学校学習指導要領解説 国語編 (文部科学省) より。

 

・・・

 

書写に関する事項

 

(中略)

 

また、我が国の伝統的な文字文化やこれからの社会に役立つ様々な文字文化に

関する認識及びそれらに親しむ態度の育成も大切である。

 

第1学年では,様々な場面に応じて楷書で書くことと,

行書の基礎的な書き方を理解して書くこととを示している。

 

第2学年では,行書の漢字と仮名の調和を考えて書くことと,

楷書又は行書を選んで書くこととを示している。

 

第3学年では,文字を文化として認識し意図を明確にして文字を書くことを示している。

 

・・・・・・・・・・

 

学習指導要領解説では、小学校の国語の文字指導において、

学年別漢字配当表にある漢字の字体は、あくまでも「標準」であり、

一つの手掛かりを示すものであって、これ以外を誤りとするものではない、

と明記しています。

 

そして、「常用漢字表」に示してある、「活字のデザイン上の差異」、

「活字と筆写の楷書との関係」などに考慮することが望ましい、と明記しています。

 

ちなみに、「常用漢字表」は、平成22年に改定(内閣告示第2号・文化庁)されましたが、

「活字のデザイン上の差異」、「活字と筆写の楷書との関係」については、

旧版(昭和56年内閣告示)と同様の内容で解説されています。

 

上記の記述は、楷書の正しい書きかたを考える上でも、

義務教育における文字指導を考える上でも、大切なポイントです。

 

簡単に言うと、いわゆる「許容の書きかた」の範囲の話です。

指導要領において「児童の書く文字を評価するときに考慮しましょう」と言及されている

「常用漢字表」で示されている文字の一例を、少し、ここに挙げてみようと思います。

 

「保」の「木」は、「ホ」の形でもOK。

「角」の3画目の縦線は、ハライでもトメでもOK。

「木」の縦線の収筆の部分は、トメてもハネてもOK。

「公」の2画目の右ハライは、ハライでもトメでもOK。

「陸」や「空」の「ル」のような形は、「ル」のような曲げる形でも「ハ」のような形でもOK。

「絵」などの「糸ヘン」の「小」は、左端から順番に点をチョンチョンチョンと書いてもOK。

「物」の「牛ヘン」の縦線の収筆は、トメてもハネてもOK。

 

ごく一例ですが、「許容の字形」について挙げてみました。

 

これらの「許容の範囲」を知るためには、

やはり過去1800年の楷書の歴史と字形を知らなければなりません。

過去の楷書を知ることによって、許容として適切な範囲を知ることができるでしょう。

 

また、文字指導における問題点としてしばしば指摘されることは、

学校の教師や保護者、あるいは塾などの指導者が、

「学校(の教科書や教材)で習う文字の形が、(現代において)正しい文字の形」と

信じ込んでいる場合です。

 

そのような、理解の不足した教師や保護者に指導された子どもは、

漢字を正しく書くことについて、正しい知識が持てなくなります。

 

また、子どもは許容の字形を知っていたとしても、

理解の不足した採点者が採点すると、許容の字形を書くと「×(間違い)」にされるから、

教科書の字形しか書かない、ということになってしまいます。

 

漢字テストで自分を守るために、「許容」では書かずに「教科書」の通りに書く、

というのは、理解が不足した採点者から自分を守るためには、賢いことです。

 

しかし、そもそも、文科省も文化庁も正しい文字として認めている

「許容」の書きかたを「×」にすることが、間違っているといえましょう。

 

楷書の文字を書くことは、正解は一つだけだと言い切れません。

自己流のクセ字を書いているようでは問題外ですが、

正しい楷書とは、正解は一つではなく、複数あるということを知ることが大切です。

 

ひとつに絞ったワンパターンだけが正解ではなく、

複数の正解があって、それでよろしい、ということが文字の世界です。

 

以上のことを、知っておいていただきたく思います。

 

学習指導要領および解説は、文部科学省のホームページ、

常用漢字表は、文化庁のホームページ、

両方ともインターネットで検索すると、閲覧することができます。