書家 山本祐司 −正統と品格 清新な雅趣の創造− 本文へジャンプ

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2008年掲載・2019年改訂

時代と書の様式

 

中国の明の時代に、董其昌という書人がいました。
董其昌は、中国の各時代の様式(スタイル)として、
「晋人の書は韻を取り、唐人の書は法を取り、宋人の書は意を取る」と
述べています。

董其昌の後の人たちも、この概念を継承していて、
現在のところ、各時代の書の様式の概念は「晋韻、唐法、宋意、元明態、清学」と
おおまかに分類されています。

この様式をあらわす言葉について、
書道の代表的な古典を見てわかりやすい例を挙げてみたいと思います。

晋の韻と、唐の法。
楷書で比べてみても、晋のほうが温かく含蓄がある感じがすると思います。
韻はひびきと解釈すると、内に秘めたひびきで深い感じがあるように思います。
唐のほうが、法則的にすっきりとした字形に整えようとした感じがします。

唐の法と、宋の意。
行書を例にするとわかりやすいかもしれません。
唐時代はのびのびと書いてはいますが、法則を尊んで書いているような書です。
宋時代と比較して、宋のほうが、より伸びやかに自由に変化させて書こうという
意識が見て取れます。どう書くかという個人の意を尊んでいるのが、宋の見どころです。

元明の態、つまり元と明は姿。
特に明になると顕著で、明の長条幅の流行は、これに拍車をかけたことでしょう。
大きな画面に、姿よく、流れよく、見事に書き上げる。字姿のあでやかさが目を引きます。

清の学。
これは、昔の書である、篆書や隷書、あるいは北魏風の楷書などを書くことが
流行したことによります。古きを学んで書くという姿勢です。


このように、中国の書は、それぞれの時代ごとに、
おおまかに書の様式(スタイル)を分けることができます。
時代ごとに好みや表現方法の変遷を見ることができます。


日本でも、奈良時代の天平写経、これはたいへんすっきりとした楷書の字形です。
字形はよく整って鋭さがあり、日本の最高峰の楷書としてもいいように思います。
平安時代の平家納経に代表される装飾経になりますと、やや丸みを帯び、
行書的な和様(日本風)の字形の写経が流行しています。

また、古墳出土の金属製品の文字と、奈良時代の万葉仮名文書、これらは共通して、
かっちりとしていない、やわらかな感じがすることが共通点です。
平安時代には、国風文化の中で、仮名文字の隆盛期の仮名や、
まろやかで端正な字形の和様の漢字の見事さに目を見張ります。

古墳時代や奈良時代の万葉仮名のかっちりしていない雰囲気、
平安時代の和様の隆盛期の、端正な字形でまろやかさのある書風、
平安時代の装飾経で行書的な文字を使うということ、
このやわらかさといいうものは、日本人の好みの特性なのかもしれません。


さて、現在の日本ではどうでしょうか。
昭和の戦後には、壁面芸術を志向する意欲的な作品がたくさん登場しました。
平安時代や江戸時代とは違う、、広い壁面に展示するための作品の形式が
試行錯誤され、昭和後期には一定のレベルでほぼ完成したと思います。

現代は、昭和の戦後に画期となった壁面芸術という意識を継承しつつ、
素直に自然に線を引くのではなく、より華美な技巧を重視していく傾向に
なっているのではないかと感じています。

迫力や存在感が増すような
テクニックを強調して作品を仕上げているように感じます。
この傾向を見ていると、後世になって、技巧偏重を取る、というふうに
評されることがあるのかもしれません。


また、いわゆる書とは違うスタンスの、筆文字アートや筆文字デザイン系の文字は、
ヘタウマの味わいや、一部の線を強調したり文字の形をゆがめたりする方向に
向かっていくのではないかと思います。


私としては、作品の可読性(読みやすさ)があるかないかは、
鑑賞者の文字に関する知識の有無に関係していると思っていますので、
可読性の有無はさておき、作品としての線質のよさ、字姿の良さ、格の高さ、

余白が美しく品がいい感じを、しばらくは追求していこうと思っています。