書家 山本祐司 −正統と品格 清新な雅趣の創造− 本文へジャンプ

トップページに戻る  書論・書道史に戻る

2006年掲載

美術品的な価格の書道用具

 

たまに古硯(年代物の硯)などを見ることがあります。
コピー用紙のB5サイズくらいの硯でも、100万円や50万円など、

骨董的な価値があったりします。素材は石なのにびっくりですね。

古くていい墨は、古墨といわれていて、1グラムあたり1万円以上のものがあります。

そういう墨は、100円ライターの大きさで数十万円から百万円を超えます。

硯でも墨でも印材(印の材料)でも、古くて品質のいい品物は、

価格が十万円を超えることが珍しくありません。

あるいは中国の王朝時代の加工紙が1枚50万円など、
入手が困難とか、現代に作られている製品よりも品質が格段にいいとか、
そういった事情で、高価な価値がついています。

このような骨董的な価格のものは、ただ古いから高いのではなく、

品質がたいへん良いことが条件です。

さて、書の学習が進んでくると、

小学生用のような、安いものでは物足りなくなってきます。

しかし、書道用具に何万円も使うことはなかなかできませんね。

 

書道用品の専門店で入手できる、数千円程度の

普段に実用できるレベルのものを対象に、少し書き留めておこうと思います。

 

墨はどれも同じような黒色に見えます。実際は、微妙に色味に違いがあります。

濃く磨った墨でも、何種類か書き較べてみると、ただの真っ黒ではないことが

よくわかります。墨のいいものは、やはり深く味わいのあるいい色をしています。
 

高校の授業などでも、生徒が墨を磨るのが面倒くさくて、ちょっと磨った墨に

廉価品の墨汁を少し足して色を濃くしてごまかしていたら、その墨の色を見て、

これは磨ったものではないなと見破れてしまいます。

 

数百円の墨汁と数千円の墨では、色味に差があるのは当然でしょう。

練習レベルでは、できるだけ安いものを使いたいのが人情です。

しかし、普段の練習では、それほど大量の墨を使わないと思いますし、

たくさん書いても、数千円の墨が一気になくなるということはありません。

毎日100枚書いてます、みたいな猛烈な練習の場合は別ですが、

普通のお稽古であれば、固形の墨はけっこう長持ちするものです。

 

本格的に書をやってみたいなと思ったら、

墨は数千円のものを磨って使っていただきたいなと思います。

墨の色に対する感覚も冴えてきます。

 

安価な墨汁では筆の根元が固まりますし、毛がカサカサとして痛みます。

磨った墨は筆の傷みにくいですし、墨の色は深みや味わいを感じます。

ただ、普段の練習で大量に墨を使いたい時や、墨を磨る時間がない時には

少し高級なランクの墨汁を使うのは時間的に都合がいい場合もあります。

 

墨を磨る硯は、石の種類によって磨り心地が違います。

石の種類やキメの細かさによって墨色や潤い感などに違いが出てきます。

中国産と日本産の硯で、石の質の違うものをいくつか用意して、

磨り較べてみると、品質の違いがよくわかると思います。

数千円くらいから数万円くらいで、それなりにいいものが入手できます。

 

紙もよく選んだほうがいいでしょう。

墨の色、にじみ、かすれ、書き心地など、紙の質によって影響しますし、

上達のスピードにも差がついてきます。

 

筆もいろいろなものがあります。

うまく書けるかどうかは、筆の毛質に関係している場合がよくあります。

半紙に6文字くらい書ける太さの筆でも、手頃な2,000円くらいのものから、

毛の質のいい一万円以上のものまで、それぞれの特徴があります。

 

あるとき、美容師さんが、ハサミやレザーのことを話してくれました。

髪を切るハサミの値段は10万円以上。ハサミを研ぐ時は専門の砥ぎ師に出す。

スーパーなどでも髪用のハサミは売っていますね。千円そこそこで買えます。

スーパーのものでも切れなくはないけど、そういう廉価のものでは切らないそうです。

もし手元に自分のハサミがなかったら切らない、そういう世界なのです。

これは、自分の技術が最大限に生かせる道具以外は使わないというプロの発想です。

 

書道でも、硯と墨と筆をしっかり選んで、自分に合っているものを使うと、

自分の実力をさらに高く発揮することができます。

値段が高級であればそれでいいという意味ではなく、

自分の感覚に合うものは、自分の力を最大限に活かせることは確かなことです。

 

こんなことを書いていますが、レッスンの初心者には、

書道用具のセットは半紙用で一万円で収まるものを紹介しています。

材料の吟味と選定、質のいいものを惜しまないことが大切だと感じています。