山本祐司 書道 作品 実演 教室




書道用語

文字について

現在確認されている最古の漢字は、約3300年前の中国の殷時代の甲骨文字です。


日本には、独自の文字がありませんでした。
中国の文字である漢字を使用して、日本語を表記するようになりました。

日本の文字の歴史は、約2000年前の弥生時代には始まったということができます。


いつから日本人が文字を使っていたかの正確な記録はありませんが、
文字が日本に入ってきた例として、以下のような遺跡の出土品があります。

・漢委奴国王金印 (西暦57年)
 後漢の建武中元2年に光武帝が奴国の使者に賜わったものとされる。
 福岡県志賀島から出土。

・漢代の貨幣
 前漢から後漢のかけての貨幣である「半両銭」や「五銖銭」や「貨泉」が、
 弥生時代の遺跡から出土。

中国の記録では、

・漢書地理志

 楽浪の海中倭人有り、分かれて百余国と為る。

・後漢書東夷伝
 奴国が光武帝に使者を派遣して、印綬をもらった。
  → 漢委奴国王金印のことと考えられる。


・魏志倭人伝
 239年、邪馬台国の卑弥呼は魏に使者を送り、
 魏の皇帝から、「親魏倭王」の称号と金印、銅鏡100枚などをもらった。

このようなことから、弥生時代の頃には、中国と日本の外交があり、
外交に携わる日本人は、中国の言葉や漢字を認識していたと考えられます。

弥生時代の遺跡から、硯とみられるものが出土していることからも、
弥生時代には文字を書くことができる人がいたと考えられます。

日本人が日本語を記したものとして現存するものは、
約1500年前の古墳の出土品が最古のものと考えられています。


・・・・・

中国でも日本でも、最古の文字として発見されているものは、
亀甲や獣骨、青銅器などの硬い素材に刻まれています。

硬い素材であったからこそ、土中に埋まっていても分解されることなく
千年以上にわたって保存することができたということができます。

紙が普及していなかった昔には、竹や木を細長く削った
竹簡や木簡というものに文字を書いていました。

帛(絹の布)や紙などの、面積の広い素材に文字を書くようになり、

文字は、墨と筆による芸術に発展していきました。

 

 

漢字の5書体

漢字には、篆書、隷書、草書、行書、楷書、の5つの書体があります。


現存する最古の漢字は、
殷時代の甲骨文字(こうこつもじ)です。甲骨文(こうこつぶん)ともいいます。

→ 亀の甲羅や獣の骨に文字が彫られているものが有名ですが、
   筆で書かれた状態で彫られていないものも出土しています。


5つの書体が誕生した順番
 篆書から隷書が作られ、隷書から草書と行書と楷書が作られました。


殷代から秦代
 篆書

秦代
  篆書から隷書が作られる

漢代
 隷書から草書が作られる
 隷書から行書が作られる

後漢末期ないし三国時代
 隷書から楷書が作られる


楷書をくずして行書ができて、行書をくずして草書ができた、という順番ではなく、
隷書から草書・行書・楷書が作られています。


それぞれの書体が生まれる過程において、
篆書から隷書ができたのは、文字を簡略化して書きやすくするためであり、
隷書から草書と行書ができたのは、文字をより速く書くためであり、
隷書から楷書ができたのは、文字をさらに書きやすくするためだと考えられます。


威厳のある雰囲気の文字 → 篆書・隷書・楷書。
速く書けて楽に書ける文字 → 草書・行書。


石碑など、後世に残すために書く書体としては、
おおむね、 秦代は篆書、漢代は隷書、三国時代以降は楷書、で書かれています。


漢代の遺跡の出土品には、
官吏の報告書などの文書に草書を使用している例があり、
また、後漢の章帝の時代に上表文(君主に奉る意見書)は
草書を使用することにしたということから、草書が誕生した漢代において、
草書はプライベートな日常の用途の速書きの書体ということではなく、
公的な文書などに広く使用されていたようです。



篆書(てんしょ)
 
現在では印鑑などに使われています。
 日本銀行券(お札)の朱色の印は篆書です。

隷書(れいしょ)
 現代では看板や印刷物などのデザインで使われることがあります。
 日本銀行券(お札)の額面の漢字は隷書です。

楷書(かいしょ)
 現在の正式な文書に使っています。

行書(ぎょうしょ)
 楷書に近い字形で、読みやすい文字です。

 くずし方の基本を覚えると、楽に書けるようになります。

           
草書(そうしょ)
 筆画をかなり省略してつなげて書いた文字で、
 現在では書の作品などに使われることが多いです。


5つの書体それぞれに、多様な書風(書きぶり)があります。
時代の傾向や、書く人の好みにより、書風はいろいろ変化しています。 

 

 

仮名(かな)

「仮名」(ひらがな)は平安時代に発達しました。

古代の日本には文字がありませんでした。
奈良時代の万葉集は、最古の和歌集として有名ですが、
文字の表記の方法は、漢字を「当て字」として使っていました。
よって、万葉集の本来の姿は、漢字の羅列です。

まだ仮名がなかった奈良時代には、
阿由(あゆ)、伊加(いか)、乃利(のり)のように、
漢字を当て字にして書いています。
このような書き方を万葉仮名といいます。


万葉集の表記の方法を、少し紹介します。

・漢文のようなスタイルで書く
・万葉仮名で書く
・島を、「島」という意味で「しま」と読ませる

・鴨を、「かも」という文字として読ませる (鳥の鴨という意味は持たない)
・十六を「しし」、山上復有山を「出」、と読ませる (4×4=16 山の上に山を書くと出)

最後のものはなぞなぞのような読み方ですが、
このように、万葉集はいろいろな表記の方法で書かれています。



平安時代の初期、800年代は中国風の文化に傾倒していました。

894年の遣唐使廃止や905年の古今和歌集は有名ですが、
この頃になると、国風文化(日本風の文化)が発達します。


奈良時代の万葉仮名は、漢字を当て字として使っていましたが、
800年代の後半には当て字を簡略化した「仮名」(ひらがな)が生まれて、
国風文化の頃には、より美しく流麗に発展しています。

国風文化は、それまでに培ってきた中国風の文化を基礎にして、
日本風の文化が花開いたものです。
土佐日記などの仮名文学も、仮名の発達や国風文化の時期のものです。

仮名は、例えば「い」と発音する文字は、
「以」「意」「伊」など、その当時に使われていた当て字をもとに作られました。
よって、1つの発音に対して、数種類の字形の仮名が作られています。

仮名は、その発音に対してどの字形の仮名を使うかは自由で、
一つの文章の中にさまざまな形の「い」が混在することは自由でした。
そのような1音で複数の字形がある書きかたは、明治時代まで続きました。

平安時代から明治時代までの1000年にわたって書かれてきた仮名は、
明治33年(1900年)に「ひらがな」と「変体仮名」に区別され、
現在のように1音に対して1つの字形の仮名を使うことが定着することになりました。


明治33年(1900年)の帝国教育会の仮名調査部の議決
「同音の仮名に数種あるを各一様に限ること」

これを受けて、
明治33年(1900年)の小学校令施行規則によって、
義務教育で扱う仮名の字形が決められました。

明治33年(1900年)に義務教育で仮名は1音1字を教えると決められましたが、

明治41年(1908年)に変体仮名が復活し、のちに変体仮名は廃止されています。


小学校令では、1つの発音には1の字形の仮名を使用すると指定されました。
指定された字形が「ひらがな」、指定されなかった字形が「変体仮名」です。

明治時代の新聞や紙幣などには、

現在使われていない仮名(変体仮名)が使われているものがあります。


「仮名」の書の作品では、ひらがなと変体仮名の区別をせずに、
両方を混用して「仮名」として作品を書きます。
もともと、ひらがなも変体仮名も、混用して書かれた仮名であったからです。

仮名作品では、散らし書きという文字の配置で書くことがありますが、
散らし書きは、中国にはない、日本独自の文字の配置の方法です。
また、たいていの場合、色彩や金銀で装飾された華麗な料紙を使用しています。

 

 

刻字(こくじ)

 

板に文字を彫る作品です。

現代の刻字作品は、自分で書いて自分で彫る「自書自刻」が原則です。

 

普通の書作品と同様に、紙に作品を書き、

その作品を原稿にして、ノミで板に文字を彫ります。

 

彫り終わったら着色して仕上げます。
着色する材料は、絵具などのほかに、金箔、銀箔、プラチナ箔なども使用します。

 

 

篆刻(てんこく)

 

印を彫ることです。

主に篆書という書体を使います。
    
印材(印の材料)はいろいろありますが、たいていは中国産の石に彫ります。

捺したときに、文字が赤いものを「朱文(しゅぶん)」、
文字が白いものを「白文(はくぶん)」といいます。

朱肉のことを印泥(いんでい)といいます。

 

 

調和体(ちょうわたい)

 

漢字とひらがなを混ぜて書いている、読みやすい作品のことです。


漢字作品的な雰囲気の調和体、仮名作品的な雰囲気の調和体、
洗練された現代感覚の調和体など、書風(雰囲気)はさまざまです。

 

 

墨について

 

固形の墨は、煤(すす)と膠(にかわ)と香料を混ぜて作られています。
菜種油や胡麻油などの油を燃やして採られた煤で作られた油煙墨と、
松を燃やして採られた煤で作られた松煙墨があります。

 

濃く磨った墨は黒々としていますが、真っ黒ではありません。
原料の煤の種類によって、青系、茶系などの微妙な色味を感じさせます。

にじみの美しい、淡い墨色(淡墨)の作品は、濃く磨った墨を水で薄めます。
濃い墨を水で薄めることによって煤のもつ色味が鮮やかに際立ちます。

淡墨は濃く磨った墨を水で薄めたものです。

薄めたときにきれいな色に見える墨を、淡墨の作品に使用します。
淡墨という特別な種類の墨があるのではありません。

現代、よく使用されているボトル入りの墨液は、昭和時代に開発されたもので、
上記の固形の墨とは、少し原材料が違います。

子供の頃、筆の根元がだんだんと墨で固まっていった経験をしたと思いますが、
筆の根元が固まっていくのは、ボトル入りの墨液を使用すると起こります。

固形の墨を磨って書いていると、根元がだんだんと固まっていくことはありません。

 

 

文房四宝について

文房四宝(ぶんぼうしほう)とは、筆・硯・紙・墨のことです。

作品を制作するには、毛氈(下敷き)、文鎮、印なども欠かせません。

筆は中国産と日本産のものを所有しています。
馬、羊(山羊)、いたち、兎など、いろいろな動物の毛があります。

硯は中国産と日本産のものを所有しています。
普段は中国の端渓硯などの硯を主に使っていますが、
愛知県の奥三河で産出される金鳳石などの日本の硯を使うこともあります。

紙は中国産や台湾産、日本産のものを使用しています。
漢字作品には、中国産や台湾産の、画仙紙という種類の紙、
仮名作品には、日本産の和紙を使うことが多いです。

墨は中国産と日本産のものを所有しています。
それぞれの墨によって線の質感や色味が違いますので、
紙、筆、硯との相性や、作品の雰囲気によって使い分けています。

印は作品の完成を示すために捺します。
印のことをハンコとは言いません。

「印(いん)」あるいは「雅印(がいん)」と呼ぶといいと思います。

作品によって大小さまざまな印を使い分けています。

姓名が彫ってある印を「姓名印(せいめいいん)」と呼び、
雅号(ペンネーム)が彫ってある印を「雅号印(がごういん)」と呼びます。


作品の署名の部分に捺す印、あるいは署名代わりに捺す印を

「落款印(らっかんいん)」と呼びます。
落款印は、姓名印や雅号印を捺します。

作品の右上(文字の書き始めの右側あたり)に長方形の印を捺すことがあります。
これを「引首印」と呼びます。関防印(かんぼういん)などとと呼ぶ人もいます。
引首印は、吉語などが彫ってあります。

作品の余白の適宜な場所に、「遊印(ゆういん)」といって、
吉語などを彫ったものを、余白部分のアクセントに捺す人もいます。

また、作品の右下の隅のあたりの余白に印を捺すことがあり、
これを「押脚印(おうきゃくいん)」といいます。

印泥(朱肉)は、銘柄によって同じような朱色でも微妙に色味の差があります。
明るい朱色や、渋い赤色など、好みによって使い分けるといいと思います。


書道関係の書籍は日本版と中国版のものを所有しています。

刻字を彫るためのノミや彫刻刀、篆刻を彫るための印刀などは、

手頃で使いやすいものを選んで使うといいと思います。

書作品を制作するには、書籍で言葉を調べ、

文字の形を考えて、構成(文字の配置、紙面のデザイン)を練り、

数々の用具の中から作品のイメージに最適なものを選びます。


<余談>
落款(らっかん)とは落成款識の略で、書き上げた作品に署名し捺印することです。
最近、印(印の石そのもの)を指して落款ということがあるようですが、
落款の本来の意味は署名と捺印のことです。

 

 

臨書(りんしょ)と仿書(ほうしょ)

 

書道史に残る有名な作品を、古典や古筆といいます。
少なくとも100年は経っていて、書道史の上で評価がされている作品を
古典や古筆といっています。

古典・・・中国の書の全般を指しています。
古筆・・・日本の書、主に平安時代の仮名を指しています。


臨書は、古典古筆を手本として、真似して書くことです。
主に、字形や筆づかいの勉強のために行います。

形臨(けいりん)は、字形をそっくり真似して再現することが目的の臨書です。
できるだけ原本に忠実に、コピーするかのように書きます。

意臨(いりん)は、その書家の雰囲気の特徴を捉えることが目的の臨書です。
雰囲気を重視しますので、多少の字形の相違は気にしません。

背臨(はいりん)は、手本を見ないで臨書することです。
書いてから原本と比較すると、どの文字の勉強が足りないかを判断できます。

仿書は、古典古筆の手本の文字(語句)をそのまま書くのではなく、
他の語句を、理想とする古典古筆の特徴を再現するように書くことです。
主に、手本なしでも自在に書けるように、技法を習得するために行います。

臨書のポイント。
形臨では、字形にこだわりすぎて、線の伸びやかさが不足していないか。
意臨では、自分の普段の書き方が出すぎて、原本の特徴が消えすぎていないか。
背臨では、書き終わった後で、一文字ずつ詳細に比較検討しているか。
これらを繰り返すうちに、その古典古筆の技法が正しく身に付きます。